「靴に住んでいる若い女性――スキャパレリのコレクションから登場した、まったく真面目な帽子。ジェイ・ソープより。」
本に書かれている文字は:
WAGNER
TANNHAUSER(タンホイザー)
これはドイツの作曲家リヒャルト・ワーグナー(Richard Wagner)のオペラ『タンホイザー』(Tannhäuser)を指しています。
『パリの新作発表会からのカラーアルバム』
これらの色に、アリックスの黒みを帯びた赤やスキャパレリのくすんだプルーン色のシープスキンをエレクトリック・ブルーと組み合わせたシックなインド風配色を加えてみましょう。スレートブルーのウール、柿色も加えて。ダークブルーサテンの裏地付きミンクコートを想像してください。また、鮮やかなピンク色に染めたモールスキンの裏地を施したダークブルーのリーファーもあります。
メインボッカーのレンガの粉のような赤色、そしてエレガントなシャンパン色の上質なブロードクロスも注目です。モリニューの3種類の緑色にも注目しましょう。一つは苔色、一つはオリーブ色で黒と組み合わせ、もう一つは画家ドランを思わせる歌うようなエメラルドグリーンです。
さらに、プードル犬や赤ちゃんネズミのように柔らかなトープブラウンも考えてみてください。ヴィオネのロイヤルパープルは鮮やかなアイリッシュグリーンと組み合わせてみましょう。シャネルの鮮やかなピンク色にも注目です。ブラックと引き立て合う純白や、透け感のあるブラックも取り入れられています。5本または10本重ね付けしたブレスレットのきらめく強い輝きにも目を向けてみましょう。
こちらのヴィンテージ切り抜きは、
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年代:1930年代後半
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雑誌名:『Harper’s Bazaar(ハーパーズ・バザー)』
イラストの作者について:
イラストの左下に小さく署名「Vertès」(ヴェルテス)とあります。これはハンガリー出身でパリやニューヨークで活躍した有名なファッションイラストレーターで画家の、
マルセル・ヴェルテス(Marcel Vertès, 1895–1961) を指しています。
ヴェルテスは1930年代〜1950年代にかけて、ハーパーズ・バザー誌やヴォーグ誌で、エレガントかつウィットのあるスタイルで非常に人気を博しました。
「靴を頭に乗せている」意味合い:
こちらの帽子は、エルザ・スキャパレリ(Elsa Schiaparelli)の代表的なシュールレアリスム(超現実主義)的デザインの一例です。
スキャパレリは画家サルバドール・ダリやジャン・コクトーらとコラボレーションし、「靴型の帽子」など、実際にシュールレアリスティックな奇抜な帽子を制作しました。
つまり、このイラストで靴が帽子として描かれているのは、「遊び心」や「非日常性」、「ファッションにおける常識を覆す」というスキャパレリのシュールレアリスム的ファッション表現そのものを象徴しています。
「靴に住んでいる若い女性」とはどういう意味か?
原文:"The young lady who lives in a shoe" は、英語圏の伝統的な童謡(マザーグース)である
『There Was an Old Woman Who Lived in a Shoe(靴に住んでいたおばあさん)』
を意識したユーモラスな言葉遊びです。
実際の童謡では、多数の子供を抱えた老女が靴に住んでいますが、ここではその童謡をもじり、「靴を帽子としてかぶる」という奇抜なスキャパレリのデザインを皮肉とユーモアを込めて表現しているのです。
つまり、このフレーズは「靴を帽子にする」という奇抜なファッションへの遊び心あふれた比喩であり、「まったく真面目な帽子」という皮肉もまた、スキャパレリの大胆で奇抜な作風へのユーモアに満ちた評価を示しています。
「ジェイ・ソープ(Jay Thorpe)」について:
ジェイ・ソープとは、1920年代〜1950年代のニューヨークにあった高級婦人服専門店の名前です。当時ニューヨークの57番街付近に位置し、ヨーロッパ(特にパリ)から輸入した最新ファッションやデザイナーのコレクションを販売していました。
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Jay Thorpe(ジェイ・ソープ) は、シャネル、スキャパレリ、ヴィオネ、ランバンといったパリの著名なクチュリエから直接仕入れた最新のオートクチュールやアクセサリーを扱い、ニューヨークの富裕層向けに高級感あるファッションを提供しました。
ここでの「Jay Thorpeより」という表現は、当時スキャパレリの帽子がニューヨークではジェイ・ソープで購入可能だったということを示しています。