Antiquites Brocante Paris by 桜アンティキテ
ヴィンテージ広告-ファッション雑誌1938年9月掲載-『Les Robes Cocteau』Elsa Schiaparelli-A.M.カッサンドル作
この雑誌の切り抜き広告は、1938年9月15日号の『Harper’s Bazaar(ハーパーズ・バザー)』に掲載された、エルザ・スキャパレリの「サンバースト・ケープ(Sunburst Cape)」を特集したページです。この号の表紙は、アール・デコの巨匠A.M.カッサンドルによるデザインで、バレンシアガやポール・ポワレと並び、スキャパレリの作品も紹介されています。
この洋服のデザインは、エルザ・スキャパレリとジャン・コクトーによる伝説的なコラボレーションとして知られる、1937年の 『Les Robes Cocteau(コクトーのドレス)』 シリーズのうちの一点です。
1937年の『Les Robes Cocteau』シリーズは、スキャパレリの代表作の一つであり、ジャン・コクトーのシュルレアリスム的で幻想的なイラストを洋服に刺繍として施した画期的なコレクションでした。このシリーズには、顔のモチーフ、抽象的な線画、シュールな視覚効果が特徴的で、当時非常に話題となりました。
この特定のデザインは、『Robe à la Cocteau(コクトー風のドレス)』とも呼ばれ、顔のシルエットや髪の毛の流れるラインが金色の刺繍で施されているのが特徴的です。
現在でもスキャパレリを代表する象徴的作品として、ファッション史に深く刻まれています。
📖 雑誌の詳細情報
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雑誌名:Harper’s Bazaar(ハーパーズ・バザー)
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発行日:1938年9月15日号
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掲載内容:エルザ・スキャパレリの「サンバースト・ケープ」を含むファッション特集
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表紙デザイン:A.M.カッサンドル
スキャパレリ
グレーのリネンドレスに、コクトーのデザインが刺繍されています。髪はゴールデン、唇はピンク、瞳はピーコックブルー。青いセロファンのハンカチを合わせて。ハッティ・カーネギーより。
「青いセロファンのハンカチ」(blue Cellophane handkerchief)については、エルザ・スキャパレリ(Elsa Schiaparelli)が1930年代に試みたシュルレアリスム的で斬新な素材のファッションアクセサリーの一例です。彼女は日常的には用いないような素材を衣服やアクセサリーに取り入れ、ファッションにアート的な新しい視点をもたらしました。セロファンは当時としては非常に新しくモダンな素材であり、光沢があり半透明で軽やかな特性を持ち、視覚的にもユニークな存在感を放っていました。この青いセロファンのハンカチは、実用的な用途よりも装飾的・アーティスティックな表現の一つであると考えられます。
「ハッティ・カーネギーより(Hattie Carnegie)」の意味について:
ハッティ・カーネギー(1880年 - 1956年)は、アメリカを代表するファッションデザイナーおよびコスチュームジュエリーのデザイナーです。もともとはニューヨークを拠点にファッションブティックを開き、オリジナルデザインだけでなく、フランスの有名なデザイナー(スキャパレリやシャネルなど)の作品も自身のブティックで取り扱い、アメリカに紹介していました。
この広告で「ハッティ・カーネギーより」と記載されているのは、スキャパレリのドレスおよびアクセサリーがニューヨークにあるハッティ・カーネギーの高級ブティックで取り扱われていたことを示しています。当時、アメリカではパリのデザイナーが直接進出するのではなく、ハッティ・カーネギーのようなセレクトショップや高級ブティックが仲介役を果たし、パリの最新モードをアメリカの顧客に提供する仕組みが主流でした。
シャネル
白いマロカン生地に黒いスパンコールが煌めき、黒いリボンベルトをあしらっています。リボン、羽根飾り、スパンコールのヴェールを巧みに組み合わせた個性的なヘアスタイルと共に。サロン・ド・クチュール、ボンウィット・テラーより。
「サロン・ド・クチュール、ボンウィット・テラー(Salon de Couture, Bonwit Teller)」とは、20世紀にアメリカで著名だった高級百貨店「ボンウィット・テラー」のクチュール(高級仕立て服)のサロンを意味しています。
ボンウィット・テラー(Bonwit Teller)について:
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ボンウィット・テラーは、1895年にアメリカのニューヨークで創業された老舗百貨店です。
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ハイファッション、ラグジュアリー、オートクチュールを中心に扱い、特にフランスから輸入した最先端のファッションを提供することで有名でした。
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サロン・ド・クチュールとは、店舗内に設置された特別なスペースで、ヨーロッパの著名なクチュリエ(シャネルやスキャパレリなど)のオートクチュール作品を紹介・販売していました。
つまり、「サロン・ド・クチュール、ボンウィット・テラーより。」という表記は、この作品がニューヨークのボンウィット・テラー百貨店内の高級仕立て服専門サロンで取り扱われていた、ということを表しています。
これは当時、パリの最新ファッションをアメリカ市場に紹介する際に使われた重要な表記でもありました。
この画像にシャネルの説明があるのには明確な理由があります。
これは当時(1930年代後半)の高級ファッション雑誌(例えば『Harper's Bazaar』や『Vogue』)によく見られるエディトリアルスタイル(編集形式)の一例で、複数のデザイナーの作品をテーマ別や素材別にひとまとめに紹介する手法を採用しています。
この画像ではスキャパレリ(Schiaparelli)による洋服だけが視覚的に描かれていますが、シャネル(Chanel)の説明文が並記されているのは、同じ誌面の中で、またはページをめくった次のイラストに、シャネルのデザインが別途掲載されていることを示しています。
具体的には、
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雑誌のページ構成として
ひとつのページに複数デザイナーを並べて紹介し、関連性や対比を示すのが一般的でした。この場合、スキャパレリの大胆でアーティスティックな刺繍(ジャン・コクトーとのコラボレーション)と、シャネルのエレガントで洗練されたスタイルを読者に対比させることを意図しています。 -
エディトリアルページの演出
読者にページをめくらせてストーリー性を楽しませる構成になっており、スキャパレリの大胆な作品からシャネルのシックなデザインへ、自然な流れを作っています。文章が先に掲載され、次ページ以降でシャネルのデザインが視覚的に紹介されている可能性もあります。
つまり、この画像にシャネルの解説が併記されていることは、雑誌のレイアウトやエディトリアルの手法によるものであり、ページ単体ではなく雑誌全体を通してのファッションストーリーやテーマを演出する目的があります。
このようなエディトリアルページは現在でも多くのファッション雑誌で一般的に見られます。
「Robe de Schiaparelli - 1937.」
(スキャパレリのドレス - 1937年)
つまり、このドレスが1937年にデザインされたエルザ・スキャパレリ(Elsa Schiaparelli)の作品であることを示しています。
「ornée par Jean Cocteau」
「ジャン・コクトーによって装飾された(デザインされた)」
ジャン・コクトー(Jean Cocteau)は著名なフランスの詩人、作家、画家、映画監督であり、1930年代にはエルザ・スキャパレリとコラボレーションして、ドレスに彼独特の詩的かつ幻想的なモチーフをデザインしました。この記述は、まさに彼がデザインを手掛けたことを明記しています。
H. R. H. The Duke of Windsor
こちらのヴィンテージの切抜きは、英国ウィンザー公(エドワード8世)の公式肖像写真で、著名なファッション写真家ジョージ・ホイニンゲン=ヒューン(George Hoyningen-Huene)による撮影です。
詳細情報:
雑誌名:Harper’s Bazaar(ハーパーズ・バザー)
発行日:1938年9月15日号
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年代:
1930年代後半
(エドワード8世がウィンザー公になったのは1936年以降のため、1937年〜)
「H. R. H. The Duke of Windsor」とは、
His Royal Highness, The Duke of Windsor(ウィンザー公殿下)の略称です。
具体的には、1936年に英国王エドワード8世として即位した後、離婚歴のあるアメリカ人女性ウォリス・シンプソン夫人との結婚を望み、自ら王位を退位しました。その後、「ウィンザー公(Duke of Windsor)」の称号を与えられました。
人物の詳細:
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出生名: エドワード・アルバート・クリスチャン・ジョージ・アンドリュー・パトリック・デイヴィッド(Edward Albert Christian George Andrew Patrick David)
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生年月日: 1894年6月23日
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死没日: 1972年5月28日
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即位期間: 1936年1月20日〜1936年12月11日(1年未満)
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退位後の称号: ウィンザー公(Duke of Windsor)
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妻: ウォリス・シンプソン(ウォリス・ウィンザー公爵夫人)
彼の王位退位は「愛のための退位(Abdication for love)」として知られ、20世紀英国史の中でも特にドラマティックで注目を集める出来事でした。
掲載された写真の年代と意義:
提示された写真は、退位後まもない1930年代後半のもので、ウィンザー公が洗練されたファッション・アイコンとして知られた時期のものです。当時の彼はファッション界において非常に大きな影響力を持っていました。
この表記(H. R. H.)の意味:
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H.R.H. (His Royal Highness) は「殿下」という称号であり、王族に付与される敬称です。
ウィンザー公爵(H.R.H. The Duke of Windsor)が着用している小指の指輪は、一般的に「ピンキーリング(pinky ring)」と呼ばれるもので、彼が愛用していたことでも知られています。
ウィンザー公爵とピンキーリング:
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ウィンザー公爵(元英国王エドワード8世)は、ファッションアイコンとして知られ、さまざまなスタイルを流行させました。
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特に彼のスタイルに特徴的だったのが、紳士が小指にはめる「ピンキーリング」で、彼の影響で20世紀初頭から中頃にかけて多くの上流階級や紳士がこれを真似ました。
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彼のピンキーリングは、通常シグネットリング(紋章やイニシャルが刻印された指輪)であり、貴族階級や上流階級で身分証明として使われることもありました。
ピンキーリングの意味:
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英国やヨーロッパでは紳士の身分や家系を示す象徴的アクセサリーとして使われました。
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現代でも品格や個性の象徴、またはファッションアイテムとして人気が高いアクセサリーです。
ウィンザー公爵のピンキーリングの特徴:
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通常シンプルなデザインで、家紋やモノグラムが刻印されていることが多い。
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素材はゴールド(18Kまたは22K)が多く、格式高いものとされます。
画像でウィンザー公爵が身につけているピンキーリングも、このような紳士の象徴的なアクセサリーであると思われます。
ウィンザー公爵が着用したことで、ピンキーリングはエレガンスな紳士ファッションの定番アイテムとなりました。
ポケットチーフ(Pocket Chief)
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ウィンザー公爵が胸元の胸ポケットに入れているのは、チェック柄(おそらくタータンチェック)のシルク製チーフです。
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チーフの入れ方はきっちり折りたたんだ「TVフォールド」ではなく、ふんわりとした柔らかな挿し方をしており、リラックスしたエレガンスを表現しています。
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このようなチェック柄は、英国らしさを象徴し、公爵の好んだ伝統的かつ個性的な装いに相応しいです。
タイ(ネクタイ)
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ネクタイは比較的シンプルなデザインで、色調としては落ち着いたトーンの、細かいパターン(おそらくピンドット柄、または小紋柄)のタイです。
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ウィンザー公爵はネクタイを美しく大きな結び目で結ぶ「ウィンザーノット(Windsor knot)」を好んだことで知られます。
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ここに写っているのも、典型的なウィンザーノットで、左右対称かつ厚みのあるバランスの良い結び目をしています。
ウィンザーノットの特徴
厚みのある生地を使用したネクタイに最適
結び目が大きく端正でエレガントな印象
フォーマルな場面や上流階級的なスタイルに好まれる
シャツの詳細:
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襟(カラー)
真っ白で非常に端正な襟をした「ホワイトカラー(white collar)」シャツです。
襟元はスッキリと整い、フォーマルな装いの象徴です。 -
袖口(カフス)
袖口は白地に細かなストライプ模様が入っています。
このようなシャツを「クレリックシャツ(cleric shirt)」と呼びます。
身頃や袖は柄物(ストライプやチェック)で、襟やカフスだけが白いシャツは、英国紳士のクラシックなスタイルとして知られ、1920〜1930年代から特に流行しました。
ファッション的背景:
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クレリックシャツは英国の上流階級や銀行家などが好んだスタイルであり、ウィンザー公爵が愛したスタイルの一つとしても知られています。
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襟と袖口のみを白くすることで、清潔感・上品さを強調し、同時に洒落感や個性を表現できるため、当時の紳士に非常に好まれました。
公爵のスタイルの特徴:
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このシャツとポケットチーフ、そしてシンプルながら優美なタイとの組み合わせは、まさにウィンザー公爵のエレガンスとこだわりを象徴しています。
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全体的にクラシックながらもディテールで個性を演出する、いわゆる「ウィンザースタイル」の完成形です。
この組み合わせは現代でも「ウィンザースタイル」の代表的な例として、フォーマルシーンやドレススタイルの参考とされることが多いです。
写真家: 「HOYNINGEN-HUENE(ホイニンゲン=ヒューン)」
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ジョージ・ホイニンゲン=ヒューン(George Hoyningen-Huene) は20世紀前半の著名なファッション写真家で、『Vogue』や『Harper’s Bazaar』誌で数多くのセレブリティのポートレートを撮影しました。特に1930年代から1940年代のエレガントで洗練されたスタイルで知られています。
ジョージ・ホイニンゲン=ヒューン(George Hoyningen-Huene, 1900–1968)
ジョージ・ホイニンゲン=ヒューンとは?
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ロシア帝国生まれのアメリカ人写真家。
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主に1930年代~1940年代にかけて『Vogue』、『Harper's Bazaar』などのファッション誌で活躍しました。
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洗練されたエレガントなスタイル、クラシカルで彫刻的な構図を特徴とし、当時の著名人や貴族など多くのポートレートを手がけました。
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特にファッション・ポートレートの分野において、のちのアーヴィング・ペン、リチャード・アヴェドンなど多くの後進写真家に影響を与えました。
特徴的なスタイル
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シンプルで優美なライティングと構図
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クラシカルで上品な人物表現
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モノクロの濃淡を巧みに使ったエレガンスな作風